課題を言語化する5つの訓練|AIをうまく使えない人の共通点と処方箋

AIを触ってみたけれど、思ったような答えが返ってこない。ChatGPTもClaudeも、話題になっているわりに、自分が使うと平凡な文章しか出てこない。そんな経験はないだろうか。

周りには、AIで仕事時間を半分にしたとか、一人で月に30本の記事を量産しているとか、にわかに信じがたい話がころがっている。けれど自分がやってみると、出力は浅いし、修正指示を出しても同じような返事しか戻ってこない。だんだん、自分にはセンスがないのかもしれない、と落ち込んでくる。

でも、安心してほしい。これは才能の問題ではない。技術の問題でもない。ほとんどの場合、原因はたった一つ、課題を言語化する訓練を積んでいないことにある。この記事では、非エンジニアの個人事業主が、今日から始められる言語化の訓練を5つ紹介する。読み終える頃には、AIとの会話が驚くほどスムーズになっているはずだ。

この記事の前提

この記事は、ひとりで小さな事業を回している人、あるいはこれから始めようとしている人に向けて書いている。AIを仕事で使いたいのに、なぜか自分だけ結果が出ないと感じている人だ。

前提として、読者は非エンジニアだと想定している。プログラムは書けないし、専門用語も得意ではない。それでも、業務の自動化や記事の下書き、顧客対応のメール作成などにAIを使いたいと思っている。そういう人にとって、何が本当のボトルネック(停滞の原因)になっているのかを、できるだけ地に足のついた言葉で書いていく。

記事のスタンスを先に言っておきたい。AIが万能だとは言わない。AIに任せれば寝ていても売上が上がる、みたいな話もしない。ただ、使い方を磨けば、今の仕事時間の3割から5割は確実に削減できる。そしてその使い方の核になるのは、プロンプトのテクニックではなく、言語化の筋力だ。筋力なので、訓練すれば誰でも伸びる。ここが一番伝えたいことだ。

うまく使える人と使えない人の決定的な差

AIをうまく使える人と使えない人の差

図: AIをうまく使える人と使えない人の差

まず全体像を共有したい。私が知っているある個人事業主は、AIを導入してから月の作業時間を約120時間から70時間に減らした。一方で、同じツールを同じ月額で使いながら、何も変わらなかったという人もいる。

両者の違いは何だったのか。ツールでもない、プランでもない、プロンプトの長さでもなかった。違いは、自分が何に困っているかを言葉で説明できるかどうかだった。

前者は、毎朝ノートに今日困っていることを3行で書いていた。後者は、AIに向かっていい感じにしてと打ち込んでいた。たったそれだけの差で、結果は10倍近く開いた。

ここで一つ、大事な事実に触れておく。AIは読心術ができない。相手の顔色を読んで察することもできない。察してほしいをそのまま投げると、察してほしいという文字列だけが返ってくる。当たり前のようだが、これができていない人が本当に多い。

言語化とは、頭の中にあるモヤモヤを、他人が見ても再現できる言葉に変換する作業だ。この作業そのものが、実はAIの登場以前から個人事業主にとって一番の武器だった。顧客にサービスを説明するのも、価格を決めるのも、広告コピーを書くのも、全部言語化の仕事だからだ。AIはその延長線にあるだけで、まったく新しい能力を求めてきているわけではない。

訓練1 困っていること日記をつける

一つ目の訓練は、困っていること日記だ。これが全ての土台になる。

やり方はシンプルだ。毎日、仕事の終わりに、その日自分が困ったことを3つ書き出す。ノートでもスマホのメモでもいい。書く内容は次の3点セットで統一する。

・何に困ったか ・なぜ困ったか ・どうなれば解決なのか

例えばこう書く。請求書の発行に30分かかった。前月の売上データを探すのに時間がかかったから。クリック一つで前月分をコピーして金額だけ変えられる状態にしたい。

これを1週間続けると、自分が本当に困っていることの輪郭がはっきり見えてくる。そしてこの日記こそが、AIに渡す最高の材料になる。先ほどの例なら、そのままコピーしてClaudeに貼りつけ、この作業を楽にする方法を5つ教えてほしい、と書けばいい。AIは急に具体的な提案を返してくれるようになる。

ここで意外な発見があるはずだ。困っていること日記を続けると、そもそもAIを使うまでもなく解決する課題が半分くらいあることに気づく。テンプレートを作るだけで済む話や、請求書ソフトの機能で標準搭載されている話だ。言語化は、AIの精度を上げるだけでなく、自分の作業そのものを棚卸しする効果もある。

ある事業者は、1ヶ月この日記をつけただけで、AIを一度も使わずに作業時間を週に8時間減らした。書き出す行為そのものが、やらなくていい仕事を可視化したからだ。言語化のリターンは、AIの外側にまで及ぶ。

訓練2 課題を5W1Hで分解する

5W1Hで課題を分解する6つの視点

図: 5W1Hで課題を分解する6つの視点

二つ目の訓練は、困り事を5W1Hに分解する練習だ。5W1Hとは、When(いつ)、Where(どこで)、Who(だれが)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どうやって)の6つの視点のことをいう。小学校で習ったあれだ。

ある人がClaudeにこう投げたとする。ブログ記事を書いて。返ってくるのは、当たり障りのないブログ記事だ。面白くも何ともない。

同じ人が5W1Hで分解してから投げるとこうなる。30代の個人事業主で、フリーランスのデザイナー(Who)に向けて、確定申告の準備の仕方(What)を、毎年2月に焦る前に(When)、自宅で一人でも進められるように(Where)、税理士に依頼する費用を年間10万円浮かせるために(Why)、チェックリスト形式で(How)、2,000字の記事を書いてほしい。

この二つの違いが分かるだろうか。同じAIに、同じ時間で、まったく違う品質の記事が返ってくる。しかも前者は10回書き直しても使い物にならないが、後者は一発で8割の完成度に達する。

5W1Hのテンプレートを机に貼っておき、AIに何かを頼むときは必ずこの6項目を埋めてから投げる、というルールを作るだけで、出力の質は3倍から5倍に跳ね上がる。慣れてくれば頭の中で埋められるようになるが、最初のうちは紙に書き出してから打ち込むことを勧める。

なお、全項目を埋める必要はない。ブログ記事ならWhoとWhatとWhyが特に重要だし、メール文面ならWhoとWhatで十分なこともある。自分のタスクごとに、どの項目が効くのかを体感で覚えていけばいい。

訓練3 期待する結果を先に書く

三つ目の訓練は、求める結果を先に書く練習だ。これは多くの人が抜け落としているポイントで、効果が一番大きいかもしれない。

AIに指示を出すとき、ほとんどの人は、これをやって、これもやって、と手順を並べる。そうすると、AIは指示の字面を追って、一つずつこなしていく。出力の全体像は、あくまで副産物として出てくる。

逆に、先に結果を書くとどうなるか。最終的には、こういうものが欲しい、と定義してから、その結果を出すためにどうすればいいかを聞く。すると、AIは完成形に向かって逆算してくれる。

具体例を出そう。個人事業主がSNS運用をAIに手伝ってほしいとする。悪い例はこうだ。Xの投稿を考えて。ハッシュタグもつけて。絵文字は2つくらい入れて。

いい例はこうだ。私が求めているゴールはこれだ。フォロワー1,500人の個人事業主向けアカウントで、1投稿あたりのいいねが平均5から20に増え、月に3人が新規顧客としてプロフィールから問い合わせてくる状態。この結果を出すためのX投稿の案を、7日分考えてほしい。

後者は、ゴールがはっきりしているので、AIは投稿一つ一つの役割を考えて出してくる。日によってフック(興味を引く入口)を変え、日によって専門性で信頼を積み、日によって共感で距離を縮める、といった戦略がついてくる。同じ投稿案でも、戦略つきの7日分は単なる投稿案7本と比べてまるで別物だ。

人間の上司に仕事を頼むときを思い出してほしい。優秀な上司ほど、最終ゴールを先に共有してから、手段は任せるよと言う。AIも同じ扱いでいい。ゴールを共有しない上司は、部下から信頼されないし、いい仕事も引き出せない。これはAIが相手でもまったく同じだ。

訓練4 NG事項をリスト化する

四つ目の訓練は、やってほしくないことを明文化する練習だ。地味だが効く。

AIはとにかく優等生なので、プラス方向の指示には敏感に反応する。けれど、ダメ出しを先に伝えておかないと、何度も同じ地雷を踏む。書いてもらった文章が丁寧すぎてよそよそしい、絵文字が多すぎる、専門用語を使いすぎる、結論が後ろに来る、といった現象は全部、NG事項を伝え忘れたことが原因だ。

私がおすすめするのは、自分の仕事スタイルに合わせたNGリストを、一度だけ作ってテンプレ化しておくことだ。毎回同じリストを冒頭に貼りつければいい。

例えば記事執筆ならこんな感じになる。太字を使わない。鉤括弧を乱用しない。結論を後回しにしない。ですます調とである調を混ぜない。出典のない数字を使わない。1段落を6文以上にしない。

このNGリストを守らせるだけで、いわゆるAIっぽい文章はほぼ消える。残るのは、自分の声に近い、使える下書きだ。

ある事業者は、自分の過去の原稿をAIに読ませ、この文体の特徴を10個あげてと聞き、その中からズレている3つをNGリストに転記した。それ以降、AIの出力が自分の過去記事と見分けがつかないレベルになったという。言語化は、やりたいことだけでなく、やりたくないことの解像度を上げる作業でもある。

NG事項は、最初から完璧に揃える必要はない。AIの出力を読んで、これは違うなと感じたポイントを、その場でNGリストに追加していく。これを1ヶ月続けると、30行ほどの自分専用ルールブックができあがる。そこまで来ると、AIはもう自分の社員のように動いてくれる。

訓練5 出力を評価する基準を先に決める

五つ目の訓練は、出来上がったものを評価する基準を、着手前に決めておく練習だ。これができると、AIとのやり取りの時間が劇的に短くなる。

多くの人は、AIから返ってきた出力を読んで、なんとなくイマイチだな、と思って書き直しを指示する。ここで2時間、3時間が溶けていく。どこがイマイチなのか言えないから、AIも直しようがない。

評価基準を先に決めるとはこういうことだ。例えばランディングページ(商品紹介の1枚ページ)の原稿をAIに頼むなら、着手前にこう書いておく。この原稿は、次の5つの基準で評価する。読み終わりに問い合わせしたいと思わせるか。3分以内で読み切れるか。専門用語が3つ以下か。ベネフィット(得られる良いこと)が冒頭150字以内に提示されているか。同業他社との差別化ポイントが明確か。

この基準をAIに共有した上で、原稿を書かせる。そして返ってきたら、基準に沿って自己採点させる。AI自身が100点満点で何点か、不足している項目は何かを答えるようになる。人間が直すのではなく、基準を与えてAIに直させる。この循環が回り始めると、1本の原稿にかかる時間は、平均で5分の1になる。

この訓練は、個人事業主にとって副次的な効果もある。自分の商品を、どういう基準で評価してもらいたいかが明確になる、という効果だ。顧客は、あなたの提供するサービスを何らかの基準で評価している。その基準を言葉にできれば、営業資料も広告コピーも全部変わる。AI以前の話として、事業そのものがシャープになる。

参考になる事例

ある副業ライターの事例

本業を持ちながらライティングの副業をしている人がいる。最初の3ヶ月、AIで記事を量産しようとしてまったくうまくいかなかった。出来上がった記事は平均的で、クライアントから修正依頼が飛んできて、結局自分で全部書き直していた。時給にすると400円を切っていたそうだ。

その人が取り入れたのが、先ほどの困っていること日記と5W1Hの組み合わせだった。毎回、クライアントの業種、想定読者、記事のゴール、NG事項を1枚の紙にまとめてからAIに渡すようにした。すると、修正依頼は月10件から2件に減り、1記事あたりの作業時間は3時間から40分になった。時給換算で約4,500円まで上がった計算になる。

変えたのはツールでもプロンプトの長さでもない。ただ、書き始める前の言語化の時間を10分だけ確保しただけだ。

あるコーチングの個人事業主の事例

一人でコーチングサービスを運営している人がいる。月の売上は約80万円前後。その人が課題に感じていたのは、顧客とのセッション準備にかかる時間だった。1人につき1時間の準備時間がかかり、週10人のクライアントを抱えると週10時間が準備に消えていた。

この人は、期待する結果を先に書く訓練を徹底した。準備をAIに頼むとき、必ずこう書くようにした。このセッションのゴールは、クライアントが次の7日間でやる具体的な行動を3つ決めて帰ることだ。そのゴールに到達するための問いを10個、リストアップしてほしい。

結果、準備時間は1人20分に短縮された。週10時間が週3時間ちょっとになった、ということだ。浮いた週7時間を、新規顧客への無料相談に充て、月の新規契約数が2人から5人に増えた。年間の売上換算で、およそ300万円以上の積み増しになる。

この事例で面白いのは、プロンプトに使っている言葉が、その人がもともと顧客に提供していた価値そのものだという点だ。言語化の訓練は、自分の商品の核を再確認する作業でもある。

5つの訓練を日常に組み込む具体的な手順

1タスクを進める言語化フロー

図: 1タスクを進める言語化フロー

ここからは、5つの訓練を日常の仕事にどう組み込むかを、時系列で具体的に書く。

朝の10分。困っていること日記に、昨日困った3つのことを書く。ノートでもスマホでもいい。書くだけでいい、解決しようとしなくていい。

午前中、最初にAIに頼む仕事が発生したとき。5W1Hのテンプレートを開き、6項目を埋める。埋められない項目があったら、そもそも自分が何を頼もうとしているのかが曖昧だ、というサインだと思ってほしい。

そのまま、期待する結果を一文で書く。終わったあとに何がどうなっていたら成功か、を書く。これは誰に見せるものでもないので、雑な言葉でいい。

次に、NGリストをコピーして貼りつける。自分の定番NGがまだないなら、とりあえず今回だけのNGを3つ書く。例えば、長すぎない、断定しすぎない、カタカナ用語を3つ以下にする、とか。

ここまで書いてから、ようやくAIに送信する。返ってきた出力を、先に決めておいた評価基準で採点する。自分が採点してもいいし、AIに採点させてもいい。基準を下回った項目があれば、具体的にどこが下回っているかを指摘してやり直してもらう。

この流れで1タスクこなしたら、夕方にもう一つやる。午後のタスクも同じ流れで進める。1日2回、これを繰り返す。

1週間続けると、5W1Hとゴール設定は、頭の中で自動的に埋まるようになる。2週間続けると、NGリストが自分用にカスタマイズされ始める。1ヶ月続けると、AIから返ってくる出力の平均品質が、目に見えて上がる。

プロンプト例で見る、ビフォーアフター

具体的なプロンプト例を2つ出す。まずはビフォーから。

見込み客に送るフォローアップのメールを書いて。

これだと、何の変哲もない丁寧すぎるメールが返ってくる。次はアフター。

前提。私は個人向けのオンライン講座を運営している。相手は、先週30分の無料相談を受けた40代の主婦で、講座の内容に興味はあるが、受講料18万円を払うかどうか迷っている様子だった。

ゴール。このメールを読んで、あと一歩の安心感を持ってもらい、今週中に申し込みボタンを押してもらうこと。

NG事項。押し売りっぽくしない。割引を匂わせない。ですます調を崩さない。絵文字を使わない。長すぎない、本文400字前後。

評価基準。冒頭で相手の悩みに寄り添えているか。受講後の未来像が具体的か。次のアクションが1つに絞られているか。

このプロンプトを投げると、いわゆる定型文ではない、相手専用のメールが一発で返ってくる。修正は、多くても1回で済む。

地味に大事なことを言うと、このプロンプトを作るのに5分もかかっていない。一方で、ビフォーのプロンプトで送って、何度も書き直しを頼むほうは、30分以上かかる。最初の5分を惜しんだ人が、結果的に30分を失う。言語化の訓練は、時間を守るための訓練でもある。

よくある失敗・落とし穴

ここでは、言語化の訓練を始めた人がハマりがちな落とし穴を4つ紹介する。

一つ目。完璧な言語化を目指してしまう。最初から全部きれいに書こうとすると、3行書いて手が止まる。困っていること日記は、殴り書きでいい。文法もいらない。自分だけが読めればいい。

二つ目。AIを人間扱いしすぎる、あるいは逆に機械扱いしすぎる。どちらも極端だ。理想は、新人のアシスタントを相手にしている感覚だ。飲み込みは早いが、こちらの事情は知らない。だから前提から丁寧に伝える。でも必要以上に気を遣う必要はない。

三つ目。NGリストを作らずに、毎回その場で指示する。これは時間の浪費の典型だ。自分が毎回言っている小言を3つ書き出して、テンプレ化するだけで、以後のやり取りが半分の時間で済む。

四つ目。AIの出力を鵜呑みにする。言語化を鍛えると出力の質は上がるが、それでも間違いは混ざる。特に固有名詞や数字は、必ず自分でチェックする。言語化の訓練は、AIを信じるためではなく、自分の判断を速くするためにある。

もう一つだけ触れておきたい。言語化の訓練を始めて2週間くらいで、成長曲線が停滞する時期が来る。これは誰にでも起きる。停滞の時期は、基本を続けるだけでいい。3週目から4週目にかけて、また一段伸びる。焦らないでほしい。

明日からやる3つのこと

長く書いたので、最後に明日からやることを3つだけ絞る。

一つ目。今日の仕事が終わったら、困ったこと3つをメモに書く。解決しようとしなくていい、書くだけでいい。これを7日間続けてほしい。

二つ目。明日AIに何かを頼むとき、5W1Hのうちの3項目だけでも埋めてから投げる。Who、What、Whyの3つがおすすめだ。全部埋まらなくていい、3つでいい。

三つ目。出力が返ってきたら、これは何点かを自分に問う。点数の根拠を一文で言語化する。言語化できなかったら、その場でAIに聞く。どこが足りないか教えてほしいと聞けば、教えてくれる。

この3つだけでいい。プロンプトの参考書を買う必要もないし、有料プランに変える必要もない。AIは既に十分賢い。足りないのは、こちら側の言語化の筋力だけだ。

筋力は、1日で1%伸びる。複利で考えれば、3ヶ月後には別人の生産性になっている。焦らず、だが毎日やる。それだけで、AIはあなたの最も安くて最も優秀なアシスタントになる。

それでは、明日の朝、3行のメモから始めてみてほしい。